2010年9月
天文航法・長距離航海者たち
8年前にヨットで、日本での最後の港石垣島を出港して、14日間かかってパラオに来たことを言うと、大抵の人は特別なことをしてきたと思うようですが、実はそんなに大変なことではありません。
現在では情報も豊富にあるので、航海中の天候もある程度予測できるし、広い大洋を航海するのに、未知であったとしても先には目的地が存在しているのが分かっているので、外洋航海に適したヨットと航海技術があれば到達できます。

ところが、コロンブスの時代になるまでは、文明が進んでいたヨーロッパや中国でも、陸地沿いにはお互いに船が行き来していても、先に何があるか分からない海は恐怖で、誰も沖を目指そうとする人はいませんでした。
マゼランが世界一周を果たし、地球が丸く、世界がつながっている事を確認できてからは、計画的に長距離を航海するための天文航法も出来て、以前に偶然に発見した島でも、交易をするためにもう一度訪れることが出来るようになり、パラオ諸島もその一つです。

実際の私の航海では、石垣島を離れて数時間もすると、まわり360度で見えるものは水平線だけになり、海図上のおおよその南にあるパラオを目指してコンパスの指針を頼りに進んでいきました。
最初の夜が来て暗くなり始めると、水平線近くの低い位置に南十字星が見えていて、その傾きから真南の方向が分かり、しばらくして水平線に沈んでしまうまでの数時間はコンパスを見なくても南十字星が進路を示してくれていました。
それから、南へ進むにつれて日毎に、南十字星も水平線からの角度が高い位置に見えるようになり、緯度が低くなってきて、パラオが近くなってきたのを実感しました。

これも天文航法の一つではあるのですが、そんな都合のいい星がいつもある訳でもなく、こんな大雑把な事ではサンゴ礁で出来た低い島のパラオは見逃し、通り越してしまいます。

本当の天文航法は、正確な自分のいる位置を求めることで、それには太陽と水平線との角度を測り、その計測をした正確な時刻を基に計算をして緯度、経度を割り出します。
ただし、これには揺れるヨットの上で、精密な計測器を使っての微妙な角度を求めるのに熟練が必要で、誤差のない正確な時計を使って秒単位での計測時刻から天測計算表を使い、さらに複雑な何段階もの計算をすることになるので、想像しただけでも船酔いしそうになってきます。

ずいぶん前に、一応、勉強してみようと思った時期もあり、本も買ってはみたのに、そのうちにと思ってほとんど開いたことはありません。
実際はどうしたかと言うと、もちろんGPSです。
天測による位置だしは熟練した人でも誤差は数十キロも出てしまうこともあるようですが、GPSなら瞬時に数メートル位の誤差で緯度、経度が出てきます。

昔の偉大な航海者達のような苦労をしなくても、今はGPSにまかせっきりにしておくと、進路を変える位置までも教えてくれるようになり、電子機器と外洋を走れるしっかりとしたエンジンのある船を手に入れれば、誰でもが長距離航海をして、パラオにも来れる時代になってきました。
ただし、大自然を相手の外洋航海では、こういった便利物に頼りすぎるのは最大の危険であり、いくら高価な物を買い揃えたとしても、塩水をかぶり電気系統がすべてだめになることもあれば、精密電子機器は狂ってしまうということも想定しておかなければなりません。

私の場合は、天文航法を勉強する気力はもうすでになかったのと、『パソコンのハードディスクもいつかは必ず壊れる』という教訓もあり、高価な多機能のGPSではなくて、一個が1万数千円くらいで買える、乾電池で動いて緯度と経度が分かる程度の安価なGPSを、いろいろ違うメーカーから4種類を用意して持って行きました。(今でも全部、壊れることなく動いているのですが)

あまり高機能でないハンディのGPSいろいろ4機種